想いを昇華する痛みに - 谷山浩子「花時計」

谷山浩子の花時計という歌が好きです。

花王提供「母と子の教育フィルム」の

主題歌になった歌だそうで、

少女が大人へと成長していく様子を

シンプルな歌詞と優しい曲調にまとめた、

本当に素晴らしい歌です。

今回は、がっつりと歌詞を追う形で

進めていきます。

そのくらい素晴らしいので!

 

 

まず、一番のAメロから見ていきます。

 

  赤いビーズの花 ゆびわ

  子犬の絵はがき

  今は忘れられた きみの

  古い宝物

 

幼稚園から小学校低学年位までの、

まだ恋を知らない頃ですね。

この並びで指輪を持ってくると、

「私○○くんと結婚するの!」

みたいな無邪気な声が

聴こえてくるようです。

 

 

この曲はBメロがないので、

すぐにサビに入ります。

今はちょっと飛ばして、

二番に参りましょう。

 

  出せなかった手紙 いくつ

  こわれた約束

  心の部屋がふえてゆく

  きみだけの歴史

 

少女が恋を知りましたね。

おませさんなら小学校高学年から、

中学生くらいまでの感じがします。

結局想いを打ち明けられなかったり、

お付き合いしていた人と別れてしまったり。

 

一番二番のAメロが

本当に素晴らしいのは、

こんなに少ない言葉数で少女の一時期を、

イメージたっぷりに描いているところ。

 

そして、天才的フレーズ、

「心の部屋がふえてゆく きみだけの歴史」

 

失恋を重ねて、人として豊かさというか、

深みを増していく様子。

客観的に大人になったねーではなく、

自分の心の部屋がふえるという、

主観的感覚的な形で、

こんなにも詩的に表現されています。

 

 

 

そして、ここで一番二番共通のサビです。

 

  まわるまわる 空の花時計

  まわるまわる 季節をめぐらせ

  少女のひとみを 時の絵の具が

  おとなに染めてゆくよ

 

比較的直接的な表現で、

歌のまとめ、種明かし的な位置づけですね。

少女から大人への成長を、

瞳という、ごく限定された部分へ

フォーカスして表現しています。

 

前半で空の花時計が回ってるので、

青い空ときらめきが瞳に映っているのが

イメージされると思います。

頭の中にはっきり映像を思い浮かべて

歌詞を書いているんだなぁという感じですね。

 

 

 

確かこの歌に出会ったのは、

破れかけの片想いをしていた頃でした。

 

今から思えば、可能性なんて初めから、

ほぼなかったような恋だったのですが、

中途半端な態度をとるその人を

どうしても諦めることができず、

ずるずると追いすがってしまった。

そんな感じの恋愛にも

限界が見えていた頃。

 

一つの恋を諦める、

自分の中で終わらせるというのは

大きな痛みを伴うし、

時間がかかるものです。

 

一つの失恋を

過去のものにするには、

その失恋を

自分の人生の、色々ある中の一つだと、

客観的に見られるようになる、

そういう方法が一つあると思います。

 

「花時計」はそういう意味では、

自分の恋を、1歩2歩、引いた視点で

見るお手伝いをしてくれます。

心の部屋がひとつふえたなぁ、

自分のひとみもまたひとつ

おとなの色に染まっていくんだなぁ…

(お前は少女じゃねえだろうという

   ツッコミはなしでお願いします)

当時は、一日に何度も、

繰り返し繰り返し聴いていたので、

聴いた回数は数百は下らないと思います。

そのくらい辛い時期でした。

 

 

 

この歌は、前述の通り、

母と子の教育フィルムのテーマ曲でした。

少女に向けて書いていると同時に、

母に向けても書いていると思われます。

だってこの歌、すごく大人じゃないですか。

少女に対する視線が。

大人で、そして暖かい。

それが、母にとってもすごく

共感できる視線のように思います。

 

 

 

最後にひとつ。

これは、今の僕にもわからないことです。

 

空の花時計って、いったいなんでしょう?

瞳のきらめきと、先ほど表現しましたが、

その比喩としての花時計?

花王提供の番組のテーマ曲だから、

「花」時計?

 

それがわからないのは、

納得できないのは、

私が少「女」だったことが

ないからなのでしょうか。悔しいわ。

 

 

  まわるまわる 冬から春へと

  まわるまわる いつも変わらずに

  すべての時代の すべての娘の

  思いを みつめている

 

    谷山浩子「花時計」