焦点距離は時をも超えて - 中島みゆき「愛だけを残せ」

人を見る時の「焦点距離」というのが、

最近の脳内マイブームになっています。

 

ちょっと何言ってるかわからない、

と、あなたの中の富澤さんは言うでしょう。

とりあえず、一つ思い出話をさせてください。

小学校6年生の頃に、学年一の「問題児」と

座席の班が一緒になった話です。

 

 

 

実を言うと、小学生の頃の僕は、

それはそれは優等生扱いを受けていました。

僕がいるクラスで学級委員を決めるときは、

必ず第一候補の雰囲気。

本人が立候補しなくても。

 

それがだんだんと嫌になり、

隠れて生きよ、とか言い出して、

ちょっと反対側へ行き過ぎるわけですが…

それはまた別の話

 

 

優等生時代の僕は、

いわゆる「問題児」たちとは、

接点がほとんどありませんでした。

向こうから近づいてくることもなかったし、

僕の方も、あまり会話が通じないだろうなと

思っていました。

 

そんな僕が、

昔からとりわけ乱暴で、勉強もできなくて、

先生の言うことを全く聞かない、

学年の「問題児」衆の頂点に立つような

男の子と、席替えによって

同じ班になったことがありました。

 

班が決まった時には、

全然うまくやっていける気がしないし、

かなり不安だったと記憶しています。

本当に彼だけは、先生たちも

ずっと別格扱いをして来ていたのです。

 

 

 

ところがどっこい。

席替えをしたその日の給食の時間で、

僕は彼のことを気に入ってしまいました。

 

どういう話をしたのか、具体的なことを

憶えているわけではありませんが、

普通に良い奴で、乱暴さなんか感じなくて、

話も上手かったんです。

多分、地頭は悪くなかったんだと思います。

給食の時間が楽しみになるくらいでした。

 

だから当時の僕は、

どうして彼が普段、乱暴やったり、

同じ「問題児」枠の子たちとアホやってるのか

とても不思議に思うようになりました。

 

 

 

そしてある日の、やはり給食の時間に、

僕は彼のことを決定的に好きになるのです。

注:恋愛ではありません。   …多分。

 

その日の彼は、

自分が小学校3年生の頃から

親戚が集まって酒を飲む度に

自分も無理矢理飲まされて、

トイレですぐに吐くのだと

笑い話として披露したのです。

 

幼心に…と言える年齢かわかりませんが、

その話に受けたショックは非常に大きく、

酔った大人達に酒を飲まされたり、

吐いたりする様子を想像した、

その映像さえ今でも憶えています。

 

僕と彼とは、

圧倒的に「違う」大人に囲まれて

生きてきた。

今向かい合っている彼が、

自分と全く違う世界を見ていることを

絶望的に悟った瞬間でした。

悟ったとともに、

不思議だった彼の振る舞いが

感覚的に納得できて、

納得できたときにはすでに、

ある種の尊敬すら覚えていました。

 

 

その世界から連れ出せるものならと

思いを巡らせてみたところで、

小学6年生の同級生である自分に

何も出来ることはなく。

 

そのうちに、また席替えが執り行われ、

僕たちは班が別々になり、

会話を交わすことも

なくなってしまいました。

 

 

 

 

 

誰かの人となりを知ろうとするとき、

どの程度の深さで十分とするのかは、

個人差があるものだと思っています。

 

明るくてよく気が回る人を見て、

快活でいい人だなと、

そこで止める人もいれば、

例えばその背景に、

何らかの不自然さを感じる人も

いるかもしれません。

会話の中でその人の過去を垣間見て、

不自然さの理由まで見てしまう人も

中にはいるでしょう。

 

最近の僕はその違いを、

その人の""をどこに結ぶか、

どのくらい深いところで結ぶのか、

という意味で、「焦点距離」の長さに

なぞらえて考えているのです。

 

もちろん、焦点距離が長いからと言っても

すぐに他人を深く知ることはできません。

ただ、焦点距離が長いということは、

まだ浅いところまでしか知らない段階の

結像は、ぼやけています。

まだその人のことは良くわからない、

と、判断が留保される。

この留保が、僕は大事だと思っています。

他人に対する尚早な判断は、

この世にあまねく存在する不幸

最大要因の一つだと思うからです。

 

 

とは言いつつも、焦点距離は、

長ければ良いというものでも

ないのかも知れません。

そんな風に自分を見て欲しくないと

思う人もいるかもしれません。

 

ただ、一人の人と真正面から、

きちんと向き合わなければならない時には、

焦点距離が短くては

かなわないだろうなとは思います。

 

そして、長い焦点距離でもって

人を好きになれたらそれは、

簡単なことでは変わらないだろうと

信じています。

注:恋愛に限りません。

 

 

 

 

さて。

僕の焦点距離がぐっと伸びる

きっかけを作ってくれた、

件の男の子ですが。

 

一昨年から昨年くらいにかけて、

地元で何度か見かけることがありました。

朝の通勤の時間帯で、

駅前のパチンコ店に並んでいるところでした。

 

 

嬉しかったけど、

声はかけられませんでした。

向こうは僕のことなんて、

大しておぼえてもいないと思うし、

今の僕に声をかけられても、

やっぱり戸惑うだろうし。

 

 

彼は彼の世界の中で、

幸せで居てくれたら良いなぁと、

遠くから想っています。

 

 

思いがけない幻に誘われて

思いがけない風向きに運ばれて

偶然の朝 偶然の夜

我々は何も知らされず 踏み出す

縁は不思議 

それと知らぬ間に探し合う

縁は不思議 

それと知りながら迷い合う

みんな哀しくて みんな恋しくて

立ち止まってしまうから

 

愛だけを残せ 壊れない愛を

激流のような時の中で

愛だけを残せ 名さえも残さず

生命(いのち)の証(あかし)に 

愛だけを残せ

 

中島みゆき「愛だけを残せ」

 

 

今回の選曲は…

ゼロの焦点』主題歌ということで…

 

安易ですみません。。。