『性的に男性同士の接触がある人も多い。』

Buzzfeedの岩永直子さんが、

厚労省クラスター対策班の西浦博教授に

インタビューを行った記事が丁寧で、

ありがたい情報発信だと思います。

 

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-nishiura

 

 

 

さて、この記事の中に、以下の記述があります。

 

 

現状の都内のデータを見ていると、

まだ一般の人には広がっていません。

これは表には出ていないかもしれませんが、

感染経路が不明となっている感染者は

増えていますが、

経路がわかっているところは、

ほとんど病院かデイケア施設です。

デイケア施設は危ないです。

高齢者が感染すると重症になり、

重症のベッドが必要になります。

若者が飲み会で、ふざけたキスで

うつったなんてケースでは、軽症で済みます。

それ以外の方も、港区の繁華街などに

集積した感染者ばかりです。

性的に男性同士の接触がある人も多い。

(コロナ対策などのため職場での勤務が続く)

公務員もです。厚労省で一人出ました。

他の省庁でも勤務やサービスの

続いているところでは感染者が出ました。

クラスターが外国人から病院や夜の街にうつり、

一般市民に少しずつ忍び寄っています。

でも、まだみなさん一般の人に

広がっているわけではないです。

ただ夜の街で遊んだ上司がいる会社員、

というような形で、一般にも

広がり始めているのは間違いないです。

 

 

『性的に男性同士の~人も多い』について、

これは差別だ、いや差別ではないといった議論が

出てきています。状況が状況ですので、

差別だとする主張はそれほど強くはなく、

抑制的な議論に収まっています。

 

そのこと自体は良いことだと思いますが、

せっかくの良い機会なので、

こうした発言と議論に対しどう考えるか、

自分なりにまとめてみようと思います。

 

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まず、この発言が差別的意図を持つか。

実は、これを事実と呼べるかどうかは

再考の余地があると思っていますが(※1)、

そしてそれは重要なポイントだと思いますが、

たとえこれが事実であってもなくても、

差別的意図を汲み取ることは端的に

誤りと言ってよいはずです。

この記事上では、一般という単語に

過剰に反応する理由が見当たらないからです。

この記事の公開後、西浦先生は、

誤解を与える表現だったと謝罪を

ツイートしていますので、

まずこれは疑う必要がなさそうです。

 

 

では、発信者の意図とは別に、

この発言が差別を助長するかどうか。

これは、残念ながら可能性として

存在する、と言うしかないと思います。

これは、ゲイというカテゴリが

性と結びついていることと、

性と道徳が結びついていることが

大きく影響する問題です。

 

性的に男性同士の接触がある人の感染が多い、

という記述(あるいは事実)のみからは、

その原因となる感染経路を断定

することはできません。(※2)

しかし、このカテゴリ分けが

男同士の性的接触がある、

という特徴を元にしている

(これは正確な表現ではありませんが)

以上、性的接触が主な感染経路という

想像を惹起することは避けられないでしょう。

 

もともと、性的接触が「多い」

「不特定多数」である、ということは、

不道徳とされやすい。

感染症と結びついたとき、更に強化される。

 

何がまずいかというと、

ゲイは性に放埓で不道徳だ、という

素朴な差別が生まれることに加えて、

それを当事者たちも含めて内面化し、

「発展場とかクラブのエロ系イベントとか、

 リアルして不特定多数と性的接触を持つとか、

 そういう自分たちが悪い」という方向へ

進んでいってしまうことがまずい。

こうなると当事者の側には、

①自分は抑制的に振る舞うから該当しない。

 しかしゲイにはダメな奴らが一定数いて、

 だからゲイは差別されるし、されて当然

というスタンスや、

②どうせ我々は差別されているのだから、

 ダメな奴らとして好きにやれば良い。

というスタンスが生まれる。

①も②も、自分たちを苦しめる結果となる。

差別されないためには道徳的でなければ

いけないということになるからです。

それは明らかに、不均衡で不公平であり、

差別の強化を意味します。(※3)

 

 

 

じゃあどうしたら良いのか。

それが簡単にわかるようなら、

この問題ははるか昔にもっとたやすく

解決されていたことでしょう。

しかし確かなのは、

こうした「差別を助長するかもしれない発言」を

その都度攻撃することでは

解決には至らないということです。

この発言が、差別を助長しないような

社会状況、人々の共通理解を作っていく、

それしかないのではないか、と思います。

 

 

我々当事者の中においては

いわゆる「寝た子を起こすな」的な主張も

よく見られます。だいたいは、

活動家のせいでイメージが悪くなっている、

静かにしていれば今の一番心地よい状況を

保てるのだ、みたいな主張です。

 

気持ちは非常によくわかります。

隠れている分、世間的には倫理的でないと

されるようなことも、比較的自由にできるし。

 

しかし、初めからずっと隠れたままでいたら、

今の状況はなく、もっと差別は強かったでしょう。

発信してきた人がいたから、

今ある一定の(社会における)居心地があります。

 

そして、今は、まだまだ隠されている状況。

親しい人間関係の中に同性愛者がいる、

という人は、日本ではそう多くないでしょう。

きっかけがあれば、バックラッシュ

簡単に起きる社会だと言って良いと思います。

そして、もうバックラッシュは起きないだろう、

と言える社会は、近いうちには来ないでしょう。

来ても、それが永久に続くわけでもないでしょう。

 

そういう前提のもとに、今だけではなく、

自分たちの未来や、次世代以降のことを考えたい。

 

 

 

ちなみに件の記事で議論が起きたことに関しては、

気を付けるべきは西浦さんではなく、

記者である岩永さんだったと思います。

それぞれが何のプロなのかを考えれば、

それは自明なことだと思います。

 

 

ちなみに西浦先生は、

都知事の会見で一目見た時からファンです。

個人的な趣味によるものです。

応援していきたいと思います。

 

 

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※1

男性総人口のうち、

同性との性的接触ある人の割合が

どれくらいなのか、

正確な数値はわかっていないはずです。

しかし「多い」と言うからには、

この(不明な)比率と比べて、

有意に高い割合で感染者が存在する、という

ことでなければなりません。

 もし、総人口に占める割合と

比率が変わらないのに「多い」と

言ってしまっている場合、

そこにこそ、「ゲイ」というレッテルの

厄介さがある、と言えるでしょう。

ただし、明らかに複数の発展場で

クラスターが発生したというのであれば、

「発展場でクラスターが発生している」

と言いづらく(一般的用語でない、生々しい)、

こうした表現になるのはうなずけます。

 

 

※2

ゲイ・コミュニティという言葉がある通り、

ゲイ同士が集うコミュニティと言えば

ゲイバー・クラブ・発展場など、

感染症が広がりやすい場が思いつくのは

特徴的だと思います。

また、ゲイバーはその成り立ちから

料金が安く、その延長として、

「回遊」という文化もあります。

(一晩で数件のバーを巡る楽しみ方)

いわゆる「スーパースプレッダー」が

感染を引き起こしやすいと想像されます。

原因となり得るのは

性的接触ばかりではないはずです。

 

※3

ゲイがノンケと比べて性的に活発である、

という事実があったときに、

その原因をゲイの倫理観に直結させるのは

思考停止に近いと思います。

同じ6名でも、ノンケなら男女3:3で

組み合わせとしては3×3=9通り、

ゲイなら男6で、6×5÷2で15通り、

という、同規模のコミュニティの中での

可能な組み合わせの多さ。

あるいは、社会的な抑圧がメンタリティに

与える影響。などなど、

考察すべき要因はいくらもあります。