ハンバートハンバートの歌がとても良いので

最近ハンバートハンバートという

夫婦デュオにハマっておりまして。

主だった歌の作詞作曲を旦那さんである

佐藤良成さんがなさってるんですが、

僕の好みの方向性で良い詞を沢山書かれてて、

かつ音楽もフォーク・カントリー調が多くて

詞との相性がすごく良いんですね。

すごくにわかなファンなので、

作家性とかかなり浅い理解なんですけど、

オミクロン株が猛威を振るっている今、

(僕も罹ってそろそろ完治というところ)

ちょうどよい紹介になるかなと思って

筆を執ってみました。書いてたら10曲という

いささか分量の多い記事になってしまいました。

どれも外せなくて……。

 

 

1.恋の顛末

ハンバート ハンバート "恋の顛末" (Official Music Video)

 

僕がハンバートハンバートを知るきっかけになった歌。

Amazon Prime Video で先行配信されているテレ東ドラマ

「僕の姉ちゃん」のオープニングテーマです。

ドラマがとても味わい深くてよいのですが、

第一話のオープニングで聴いたときに、ん、いいぞと思い、

続いて二話目三話目と毎度聴いていくうちにますます、

ドラマをよく引き立てているこの歌に惹かれました。

それもそのはず、この曲ドラマのための書下ろしだそうで。

 

私の恋はいつも私から

始めるのも終えるのだって

 

ここなんか、ドラマの「姉ちゃん」を見事に表現してるんです。

 

こんな時間はいつか終わる

始めた日からわかってたから

今日は深酒でもしながら

火が消えるのを眺めていよう

 

いやぁ。良い。深酒 “でもしながら” というセンス。

深酒しちゃうんじゃなくて。

自分の気持ちを飼い馴らしている感じ。

振って終わらせた側の余裕ある淋しさとか虚しさに

ものすごくしっくりくる。あとやっぱり「姉ちゃん」ぽい。

ぜひドラマと一緒に楽しんでほしい曲です。

 

 

2.おなじ話

ハンバート ハンバート - おなじ話-グッバイとしまえんver. (Official Live Video)

 

この曲は二人の曲の中でダントツにバージョン違いが多く、

どうやら代表曲のようです。

 

どこにいるの? / 窓のそばにいるよ

何をしてるの? / 何にもしてないよ

そばにおいでよ / 今行くから待って

話をしよう / いいよ、まず君から

 

こんな風に会話部分が殆どを占めていて、

すごくそぎ落とされた詞なので解釈もいろいろできますが、

やっぱりこれは、遺された者と遺した者の歌なんじゃないかと

僕も思います。タイトルでもあり、歌の中でも繰り返される

「おなじ話」というのは、二人の新しい思い出が

生まれ得ない状況だってことだと思うのですよね。

 

何をしてるの? / 手紙を書いてるの

そばにおいでよ / でももう行かなくちゃ

・・・・・・

さようなら ゆうべ夢を見たよ

さようなら いつも同じ話

 

亡くなって49日目あたりなのかな……

ちょうど成仏して行ってしまうところなのでしょうか。

これが代表曲だなんて、渋すぎる。。。

 

 

3.虎

Humbert Humbert - Tora [Official Music Video]

 

又吉さんはハンバートハンバートの大ファンとのことで、

この曲のMVに友情出演されています。

これはまた方向性がだいぶ尖っていて、

自信を失くしたのかプライドが傷ついたのか、

どん底まで落ち込んだ男(作詞・作曲家らしい)が、

人を感動させる歌を作って自分を取り戻したいけれど

まったく作れずに酒に溺れる、というもの。

昭和の文豪っぽいストーリーで、

又吉さんが出演するのもうなずけますね。

 

何を見ても何をしても

僕の心凍えたまま

外は花が咲いていても

僕の庭は冬枯れたまま

 

こんな感じの描写が何度か出てくるのですが、

もうこの表現だけで勝ち確定って感じです。

タイトルの「虎」というのは、歌詞の最後に出てきます。

 

酒だ、酒だ、飲んでしまえ

虎にもなれずに溺れる

 

調べたところ、山月記本歌取りのようですね。

読んでないのであまりわからないですが、

虎になって自分を失ってしまうこともできずに、

自意識に溺れ続けているってことなんでしょうね。

まぁ、虎にはなれないのが人生。

どこかで立ち直らなければ。でも、

こうやってどん底にいる時間もあっての

人生だったりもして。

 

 

4.1時間

1時間  -  ハンバートハンバート

 

これはめっちゃフォークです。別れの一場面の切り取り方が秀逸。

 

夜明けまであと1時間

もうそろそろ行こう

聞こえるのは眠る君のかすかな寝息だけ

・・・・・・

ああ、僕は君を置いて今ここを出ていく

外は雨 音もなく 僕の頬をぬらす

 

どういうシチュエーションなのかちょっと謎な感じが良い。

今日で最後にしよう、と言って夜明けまで一緒にいた?

何かしらの事情で遠くへ行かなければならない故の別れ?

そうでもないような気がするのはこんな部分があるから↓

 

君と出会ったのはたった半年前のこと

もうずいぶん前のことのような気がする

今思えば僕らろくに話もしなかった

時間はいつもあまるほどあったはずなのに

 

しかしそんな謎も気にならないほどしみじみと美しい言葉と旋律。

フォークって、良いよね……と思える一曲。

 

 

5.それでもともに歩いていく

ハンバート ハンバート - それでもともに歩いていく(Official Live Video)

 

今度は友情の歌です。それもカッコ悪い友情。

 

子供のころに憧れた 木の上の小屋と合言葉

落ちこぼれが集まって 親に内緒で冒険する

 

これは映画「スタンド・バイ・ミー」の世界ですね。

確かに子供のころにあれを観たら、めちゃくちゃ憧れそう。

 

思い描いてたものとは全然似ても似つかないけど

足を引っ張りあいながら君と歩いてく

 

友情の歌で「足を引っ張りあいながら」って、

なかなかないでしょうね(笑)。赤裸々というか。

でもなんだかそれが新鮮で、聴きたくなる曲です。

 

 

6.小さな声

ハンバート ハンバート "小さな声" (Official Music Video)

 

一番辛いのは 朝起きること

あれこれ言い訳を考えている

がんばれ あと少し 君なら できるよ

あいつマジ使えない 聞こえてるけど

階段上るごと お腹痛むよ

 

がんばれ って言うなよ 他人事じゃないか

誰か気づいて 気づいて 気づいて

それはまずいよ ってだれか言ってよ

 

これは歌詞を読んでもらうのが一番早いだろう、

ということで半分くらい一気に載せちゃいました。

うつ病は朝が一番辛くて、午後遅い時間になると

少し楽になっていくことがある、

と大学の心理学で学んだのですが、

それっぽい経験が自分にもあるので、

けっこうあるあるなのかもしれないと思ってます。

(僕の場合原因は失恋です。まったく大した話ではなく笑)

 

辛い人の背中を、やさしく押す歌です。

励ます歌っていっぱいあるけど、本当につらい時って、

このくらいの落ち着いた曲調じゃないと聴けなかったり

しますよね。竹内まりやの「元気を出して」とか、

元気すぎて辛いときにはちょっと…とか思ったりして。

薬師丸ひろ子バージョンは別です。あれは聴きたい。

 

ぼくが君なら 背中を 叩くよ

逃げたらいいんだよ

 

 

7.妙なる調べ

妙なる調べ #ハンバートハンバート

 

これはタイトル通り、妙なる調べ(たえなるしらべ)ですね……

すごく歌詞の少ない歌なんですけど、(以下引用で全文です)

僕はこういうの大好きです。

 

だんだん長くなっていく 壁にのびる影

だんだん薄くなっていく 僕たちの影

 

窓の外 なんて美しい色

なんだか足の先の方からなくなっていくみたいだ

 

だんだん細くなっていく 僕たちの火

だんだん遅くなっていく 僕たちの時間

 

何だろう この美しい音

なんだか頭の上の方から聞こえてくるみたいだ

 

だんだん、、、

 

壁にのびる影が長くなり、僕たちの影が薄くなる。

日が落ちていく様子、時間の経過ですが、

人生の日没、ということなんでしょう。

細くなっていく僕たちの火は命のともし灯、

時間が遅くなっていくのは、年齢とともに変わる感覚。

美しい「死」の歌ですね。

 

 

8.ぼくのお日さま

ハンバート ハンバート "ぼくのお日さま" (ライブ映像作品「はたらくふたり Live at Nakano Sunplaza hall」より)

 

この歌を聴いて、僕の中でハンバートハンバート

殿堂入りが決定しました。

吃音症を主人公にした歌のようですが、

実際に吃音を持っていなくても、

共感できる人は一定数いるのではないでしょうか。

言葉を飲み込んでしまう人。飲み込まされてしまう人。

 

ひとことも言えないで ぼくは今日もただ笑ってる

 

このフレーズを聴いて完全に涙腺が崩壊しました。

映像が、心情がありありと浮かんでしまって…

昔月9ドラマで、吃音症を持っている女の子が、

歌ではまったく吃音が出なくて、

本格的に挑戦していく話がありましたね(「ラブソング」)。

 

 

9.永遠の夕日

ハンバート ハンバート - みんなのFOLKへの道 vol.26

↑開始位置調整してあります

 

数か月で別れた恋人が、でも一番好きだった、

髪が白くなるほど歳をとってしまったけど、

それでも君を想い出し…てたら再会した、

という歌。

フジファブリックの名曲「若者のすべて」と

詞のストーリーは似ているけれど、

離れていた期間はこちらの方が圧倒的に長いみたい。

とは言え、内容としてはよくあるっちゃあよくある。

けど、曲と詞のバランスが良くて、

ついつい聴いてしまう感じ。

 

あの日見た夕焼けは完璧だった

今まで見た何よりも綺麗だった

あれからぼくは世界中巡ってみたけど

あんなに綺麗なものは他にはなかったよ

 

夕焼けって、なんだかほんとにずるいですよね。

存在自体があまりに詩的過ぎる。

うちの窓は、墓地と大きな公園の方向を向いていて、

高い建物が遠いので視界が抜けてるんですけど、

夕暮れになると色のグラデーションが本当に綺麗で、

今の部屋で一番気に入ってるポイントかもしれません。

好きな人と見たら、そりゃあ美しく見えるでしょう…

 

こんな歳になった今ぼくはまた君を想う

 

歳とってもこういう気持ちになれるってのがまた良い。

人生いろんなことがあってからの想いってのは、

より複雑で、より深くて、より確かなものなんでしょうなぁ。

 

 

10.さようなら君の街

ハンバート ハンバート - さようなら君の街 (Official Live Video)

 

この歌もまた、王道から少し外れた場面。

最後のフレーズがまんまそれを表しております。

 

いま君をまた忘れよう

 

街とか建物の変化と恋愛の風化を重ね合わせた表現は、

ユーミンの「DOWNTOWN BOY」とか、

(『宝島だった秘密の空地 今ではビルが建ってしまった』)

みゆきさんの「もう桟橋に灯りは点らない」とか、

(『だれも覚えていないあの桟橋は きれいなビルになるらしい』)

いくつか思いつくので珍しくはないと思うのですが、

(思いつくものが偏っていてすみません)

街が「待っていたよ」とか、「もう帰りなさい」とか

語りかけてくるあたりが、一段と優しい歌にしてますよね。

このライブのアレンジはCDリリースされている音源とは

だいぶ違うのですが、僕はこちらの方が好きです。

※追記 FOLK3というアルバムはこのピアノアレンジでした。

 

 

以上10曲。いかがでしたでしょうか。

10曲の中にも結構幅を感じられたのではと思うのですが、

その点なかなか稀有なアーティストだと思います。

色々な歌を書いてくださる方なので、

今後の新曲も楽しみです。

 

では今回はこのへんで。